神曲
LA DIVINA COMMEDIA
著者: Alighieri Dante
むかしむかし、ダンテという男の人が、くらいきたない森の中で、まいごになっていました。もうおひさまはしずんでいってもりはくらくなり、とてもこわいです。ダンテはこわくてにげだしましたが、やさしいひょうさんやらいおんさん、おおかみさんにであい、とてもこわがっていました。
たすけてください──ダンテがそうねがったとたん、ダンテのまえにだれかがでてきました。
「あなたはだあれ?おばけでもふつうのひとでもいいので、たすけてください」
そうダンテがはなしかけると、だれかがこたえました。
「むかしはにんげんだったけど、いまはちがうよ。おとうさんとおかあさんはマントゥヴァうまれのひとだ。まちがったかみさまがいるころにアウグストゥスさんがいるローマでうまれたよ。しじんになってトロイアからにげだしたアンキセスのこどものことをうたったんだ。」
それをきくとダンテはよろこんで
「ということは、あなたはウェルギリウスさんですね。いずみみたいにきれいなことばをたくさんのこした・・・」
とさけんで、ひざまずきました。
そしてダンテは
「あんなにこわいばしょ、わたしはいやです。にげるにはどうすればいいですか」
とウェルギリウスさんにいいました。でもウェルギリウスさんは
「にげようとしてもむだだよ。あのこわいいきものはおなかがすいていて、にげようとするひとをたべちゃうんだ。あなたはわたしのうしろについてきて、ゆうれいさんたちのたくさんいるところをみるしかないんだよ。そこをすぎたら、しあわせなみんながいるから、たのしいよ」
といいました。たしかにそうだな、とダンテはおもって
「わかりました。ぜんぶをおぼえておきます」
とウェルギリウスさんのあとをついていきました。でも、まわりはとてもこわいです。ダンテはすぐにこわがって、ウェルギリウスさんをよびました。
「わたしはアエネアスさんでもないですし、聖パウロさまでもありません。ただのダンテです。こんなにこわいことをわたしにできるとはおもえません。」
でもウェルギリウスさんは
「こわがったね、ダンテ。ほこらしいものにさからったらだめだよ。なんで私がここにきたのかおしえてあげるよ。私がじごくのそとにいたとき、きれいなおんなのひとがわたしにこえをかけてくれたんだ。わかるかな?」
「えっ?」
「そのきれいなおんなのひとがやさしいこえでいってくれたんだ。"わたしのともだちがいま、こわいやまのふもとでまいごになって、とてもあぶないです。たすかるかどうかもわかりません。いってたすけてあげてください。"ってね」
「もしかしてそのひとはベアトリーチェ?」
「そのとおり!どうていマリアにめいれいされたルチアがベアトリーチェのところにきて、ダンテをたすけてあげてっていったんだ。でもここにベアトリーチェがくることはむずかしいから、わたしにたすけにいきなさいっていったんだよ」
ベアトリーチェのなまえをきいて